研究概要

ソフトマターのマルチスケールシミュレーションの開発と応用

MSSプロジェクトのHPをどうぞ

ハイブリッド型分子動力学シミュレーションの開発と応用

KAPSELのHPもどうぞ

ソフトマターをはじめ、機能性材料として重要な物質の多くは空間的にも時間的にも全くスケールの違う階層構造で成り立っている場合がほとんどであり、最先端のシミュレーションといえどもすべての階層を同じレベル(計算手法)で取り扱うことは現実問題として不可能です。例えばコロイドや生体分子の溶液であれば、溶媒を構成する分子の大きさや運動の時間スケールはコロイド粒子や生体分子のそれらより何桁も小さく、シミュレーションのスケールを前者にあわせると、意味のある結果を得るまでに世界最速のスーパーコンピュータを用いても天文学的な計算時間が必要になります。逆にコロイドや生体分子の方にスケールをあわせようとすると、今度は多かれ少なかれ現実と乖離したモデル(トイモデルなど)を用いざるを得ず、実際の物質との対応が希薄になってしまいます。このようなマルチスケールの階層性こそがソフトマターなどにおいてシミュレーションを困難にしている最大の要因となっています。この問題を克服した新しいシミュレーション法の開発が望まれており、その具体的な手法の1つとして「ハイブリッド型分子動力学(MD)シミュレーション」の開発を行っています。この方法はソフトマターのような速いダイナミクスと遅いダイナミクスが共存する系において特に有効となります。前者の自由度を完全に消去するのではなく、連続体として粗視化したメソスケールの変数として与え、モデルとして妥当な密度汎関数を通じてそれらの自由度を物理的に正確に、なおかつコンピュータで扱いよい形で扱うのがハイブリッド型MDシミュレーションの最も大きな特長となっています。

最近注目を集めているマイクロ流体デバイスやマイクロラボでは流体力学効果が本質的に重要であり、問題の解決や設計にハイブリッドMD法の応用が期待できます。このようなメソスケールの移動現象では流体のレイノルズ数が小さいために、いわゆる乱流の効果は無視することが可能です。逆に熱や物質の拡散の効果が大きくなり、イオンの分布や分子の配向など溶媒の内部自由度の影響も重要になります。これらのことから、メソスケールの移動現象では化学プラントのような大きなスケールで発生する流動現象とは質的に異なる知識と技術が必要となります。

主な関連論文:

  • Yasuya Nakayama, Kang Kim and Ryoichi Yamamoto, Simulating (electro) hydrodynamic effects in colloidal dispersions: smoothed profile method Eur. Phys. J. E, 26, 361-368 (2008).
  • Kang Kim, Yasuya Nakayama and Ryoichi Yamamoto Direct Numerical Simulations of Electrophoresis Phys. Rev. Lett., 96, 208302 (2006).
  • K. Kim and R. Yamamoto, Efficient simulations of charged colloidal dispersions: A density functional approach, Macromol. Theory Simul., 14, 278-284 (2005).
  • Y. Nakayama and R. Yamamoto, A Simulation Method to Resolve Hydrodynamic Interactions in Colloidal Dispersions , Phys. Rev. E, 71, 036707 (2005).
  • R. Yamamoto, Y. Nakayama, and K. Kim A Smooth Interface Method for Simulating Colloidal Dispersions, J. Phys.; Condens. Matt. 16, S1945 (2004). [PDF]
  • R. Yamamoto, Simulating particle dispersions in nematic liquid-crystal solvents, Phys. Rev. Lett. 87, 075502 (2001).

 高分子溶融体のダイナミクスとレオロジー

大規模な分子動力学シミュレーションを行い、短い鎖状分子からなる過冷却液体のダイナミクスとレオロジーを調べた。過冷却の場合、線形領域で応力緩和関数 G(t)が比較的短い時間においてモノマー間の斥力相互作用の存在によって引き伸ばされた指数関数的に振る舞い、長時間でようやく鎖のエントロピーが支配的になり理論的なRouse関数に漸近することを示した。せん断変形に対する過冷却液体の過渡的応答が理論的挙動と大きく異なるのは前者の存在による。さらに非線型領域での応答について調べ、鎖の緩和時間が著しく大きくなる過冷却・ガラス状態では非常に弱いせん断速度に対しても高分子鎖の変形が容易に大きくなり、これがレオロジーに強烈な非線形挙動を引き起こすこと、さらに個々の鎖が不規則な回転運動をしていることを予見した。

clip_image042.jpg

図1.モノマー重合度250の高分子鎖10本からなる溶融体にシア速度0.001の流動を加えてMDシミュレーションを行い、個々の高分子鎖の変形を図示した。変形にともなって鎖が絡み合い点(番号と+で表示)で引き伸ばされ、溶融体に大きなストレスが発生する。赤い部分は他のモノマーと強く、青い部分は弱く相互作用していることを表す。絡み合い点は赤く表示され、他と強く相互作用していることが見て取れる(上図)。せん断によって鎖は一旦大きく伸びきり、その後に定常状態に緩和してゆく。シア応力、第一法線応力差の時間変化と照らし合わせると、それらレオロジー性質に現れる非線形性(応力オーバーシュート)と系のトポロジー(鎖の伸びのオーバーシュート)の対応関係が良くわかる(下右図)。

主な関連論文:

  • R. Yamamoto and A. Onuki, Entanglements in a quiescent and sheared polymer melt, Phys. Rev. E, 70, 041801 (2004).
  • R. Yamamoto and A. Onuki, Dynamics and Rheology of a supercooled polymer melt in shear flow, J. Chem. Phys. 117 2359-2367 (2002).

ガラス・過冷却液体のダイナミクスとレオロジー

液体を急冷すると融点以下の過冷却状態でも液体相が安定に存在し、さらに温度を下げると液体的なアモルファス構造が凍結された固体、つまりガラスになる。ガラス転移と呼ばれるこの現象に関してこれまでに膨大な研究がなされているが、その本質的なメカニズムについては未だに解明されていない。私は2次元、及び3次元ソフトコア粒子の大小2成分混合物の過冷却液体に対して平衡状態およびシア流動下で大規模な分子動力学シミュレーションを行い、次の成果を得た。

  1. ガラス転移近傍の過冷却状態で生じる粒子の動的性質の著しい不均一性を可視化・定量化し、その動的不均一性が臨界揺らぎと似た長距離相関を持つことを見出した(下図)。 各温度で規格化された時間(⇒ノンガウシアンパラメータが最大になる時間= t*)における粒子の変位(始点r(t)、終点r(t+t*))を、時系列を追ってベクトル表示した解析。
  2. ガラス転移近傍液体のダイナミクス(構造緩和)やレオロジー(シア粘性率)を決定する時間と動的不均一性を特徴づける相関長との間に、簡単な動的スケーリング則が成立することを示した。
  3. 液体がガラス状態に近づくにしたがって自己拡散係数がStokes-Einstein則の予測より何桁も大きくなるが、その原因が図1で可視化された動的不均一性にあることを定量的に明らかにした。
  4. 動的不均一性の顕在化に伴い、ガラス・過冷却状態のシミュレーションにおいてダイナミクスに著しいシステムサイズ依存性が発生することを示した。
  5. 強いシア流のもとでもガラスの微視的ダイナミクスはほとんど等方性を失わないという事実を見出した。これは高分子系や臨界流体などの他の遅いダイナミクスを持つ系が容易に非等方的になるのとは正反対であり、流動下におけるガラスの重要な特徴であると考えられる。
  6. レプリカ交換MD法を初めて構造ガラスに応用し、過冷却液体の効率よい平衡化を実現した。
image1.jpg

主な関連論文:

  • K. Miyazaki, D.R. Reichman, and R. Yamamoto Supercooled Liquids under Shear: Theory and Simulation, Phys. Rev E, in print. [cond-mat/0401528]
  • R. Yamamoto and W. Kob, Replica-exchange molecular dynamics simulation for supercooled liquids, Phys. Rev. E 61, 5473-5476 (2000).
  • K. Kim and R. Yamamoto, Apparent finite-size effect in the dynamics of supercooled liquids, Phys. Rev. E 61, R41-R44 (2000).
  • R. Yamamoto and A. Onuki, Heterogeneous Diffusion in Highly Supercooled Liquids, Phys. Rev. Lett. 81, 4915-4018 (1998).
  • R. Yamamoto and A. Onuki, Dynamics of Highly Supercooled Liquids; Heterogeneity, Rheology, and Diffusion, Phys. Rev. E 58, 3515-3529 (1998).
  • R. Yamamoto and A. Onuki, Nonlinear Rheology of a Highly Supercooled Liquid, Europhys. Lett. 40, 61-66 (1997).
  • R. Yamamoto and A. Onuki, Kinetic Heterogeneities in a Highly Supercooled Liquid, J. Phys. Soc. Jpn. 66, 2545-2548 (1997).

導電性ガラス中でのイオンの拡散ダイナミクス

大きな電気伝導性を示すガラス物質として、工学的にも重要なフッ化ジルコニウム化合物中におけるイオンの拡散のメカニズムを検証し、導電性はフッ素イオンがガラスマトリクス中で拡散することによってもたらされていることを示した。さらに、高温の溶融状態ではすべてのフッ素イオンが同一の動的性質を示すのに対し、常温のガラス状態ではイオン周りの局所構造を反映してフッ素イオンの動的性質に高速・低速の二極分化が起こり、導電性は高速に拡散するフッ素イオンが担っていることを定量的に明らかにした。

主な関連論文:

  • R. Yamamoto, M. Kano, and Y. Kawamoto, Computer simulation of ionic conduction in ZrF_4-BaF_2 glass, II. Normal mode analysis, J. Phys.: Cond. Matt. 9, 5157-5166 (1997).
  • R. Yamamoto, T. Kobayashi, and Y. Kawamoto, Computer simulation of ionic conduction in ZrF_4-BaF_2 glass, J. Phys.: Cond. Matt. 7, 8557-8567 (1995).

流体相平衡と相分離の分子動力学シミュレーション

粒子の大きさよりはるかに大きいスケールで生じるドメインの成長則をあえて分子シミュレーションで調べることに興味を持ち、2次元(50,000粒子)、及び3次元(78,732粒子)の大規模なLennard-Jones粒子系について、過飽和液体から析出する液滴の成長のダイナミクスをMDシミュレーションによって調べた。3次元における気液相分離の大規模MDシミュレーションは私がはじめて行ったものであり、液滴の平均的大きさは時間とともにべき関数的に成長し、その成長指数が2次元、3次元ともにほぼ1/2になることを示すことができた。また、低温では滑らかだった液滴の表面が温度の上昇とともに複雑に入り組んでフラクタル的になることを定量的に解析した。

せん断(シア)流下で相分離する液液2成分流体のドメインの構造について調べ、シア流下の定常状態ではドメインは流れの方向に大きく引き延ばされ、紐のように細長くつながった構造をとることを示した。このようなドメインの紐状構造は高分子混合物で実験的に観察されているものの、低分子液体については今回のシミュレーションによってはじめてその存在が確認された。さらにシア流下での相分離流体の非線形レオロジーについて調べた。その結果、粘性率をバルクと界面の成分に分けて考えると、バルクより界面からの非ニュートン性への寄与がより大きいことがわかった。

主な関連論文:

  • R. Yamamoto and X.C. Zeng, Molecular dynamics study of a phase-separating binary fluid mixture under shear flow, Phys. Rev. E 59, 3223-3230 (1999).
  • R. Yamamoto and K. Nakanishi, Computer simulation of vapor-liquid phase separation in two- and three-dimensional fluids. II. Domain structure, Phys. Rev. B 51, 2715-2722 (1995).
  • R. Yamamoto and K. Nakanishi, Computer simulation of vapor-liquid phase separation in two- and three-dimensional fluids, Growth law of domain size, Phys. Rev. B 49, 14958-14966 (1994).

フロン代替物質の分子間相互作用と状態方程式の予測

気体の熱伝導率測定装置を開発し、オゾン層を破壊するフロンの代替物質として期待される一連のプロパン系化合物に対して、冷媒としての基礎物性の1つである熱伝導率を実験的に測定した。同時にこれらの物質に対してモンテカルロシミュレーションを用いた熱力学性質の予測・整理を目的とし、分子間相互作用モデルの構築・検討を行った。その結果、量子化学計算と分子シミュレーションを併用することによって、フロン代替物質の状態方程式の非経験的予測がある程度正確に行なえることを示した。

主な関連論文:

  • R. Yamamoto, O. Kitao, and K. Nakanishi, Monte Carlo Simulation of Fluoro Propane, Fluid Phase Equilibria 104, 349-361 (1995).
  • R. Yamamoto, S. Matsuo, and Y. Tanaka, Thermal Conductivity of Halogenated Ethanes, HFC-134a, HCFC-123 and HCFC-141b, Int. J. Thermophys. 14, 79-90 (1993).

Attach file: fileclip_image003.jpg 511 download [Information] fileclip_image042.jpg 736 download [Information]